MGA

先日MGAの取材で旧車イベントに行ってまいりました。

MGAのイラスト販売準備をしてるのですが、いちどイラスト細部の確認を実車で行いたいと思ったのです。

3月の陽光は清々しく、絶好のお出かけ日和となりました。

イベント会場に入ると穏やかな気候のせいか、なかなかの人混み。

国産・外国を問わず様々な車両で盛況という状態。


貴重な車両を見渡しながら進むと、行く手にMGAとMGBがそれぞれ二台ずつ。

早速挨拶をしてMGAのイラストを描いている旨を告げ、お話を伺いました。

最初に拝見したのは、黒のMGA Mark1ロードスター。

シックなブラックの塗装が素晴らしく、クロームメッキの輝きが眩しいピカピカの個体だ。

撮影の許しを得て、まずはフロントビューを一瞥して見る。


すると気づいたのは、フロントウインカーの意匠。

よく見るとウインカーレンズの上下左右が小さいフィン状の形状となっている。

隣にいる赤の車両を確認するとやはり同様の形状で、イラストではすっかり見落としていた所。

早速修正が必要か要検討となる箇所を発見し、苦笑いする。


続いて気になったのがヘッドライトから下に伸びるボディパネルの分割線。

こちらもイラストでは再現しておらず、絵のベースとなった取材車両も確か分割線はなかったはず。

早速オーナーに声をかけ確認を試みる。

「ここでパネルが分割されているのですが、この形状はオリジナルなのでしょうか?」

そうオーナーに水を向けると、


「ああ、確かに分割されてますね。どうなんだろう」

という答え。

隣の赤いMGAはパネル分割線はなく、綺麗にスムージングされている。


こちらの車両はスポーティにカスタムされていて、フロントグリルをメッシュに交換した上、前後ともバンパーレスだ。

たちまち二台のMGAオーナーを巻き込んで、議論が始まる。


「MGAのフロントボディパネルはセンターの部分と、左右フェンダー・フロントバンパー下部と4分割で構成されています」


丁寧に解説頂いたものの、左右フェンダーパネルに存在する分割線の正体は結論が出なかった。


今webで画像検索すると、この分割線の入った車両とそうでない物、それぞれ存在しているが、どうやら分割線が入るのがオリジナルのようだ。

ちなみにMark1・MarkⅡどちらともこの形状を確認できる。


引き続き気がついた事を質問していく。

「ドアミラーがイラストとは異なるように見えますが」


「MGAはそもそもアウターミラーはないんですよ。なのでミラーはみんな後付なんですね」


「なるほど」


黒のMGAはドアミラーを装備。赤はフェンダーミラーで、webで調べるとイラストで描いた位置にミラーを装備した車が多いようでとりあえず安堵する。


「ワイヤースポークのホイールはオリジナルですか?」


「そうです」


「スチールホイールの車両も見たことありますが」


「それはツインカムですね。あちらはそれが標準仕様です」


「MGAツインカムのエンジンは、トヨタ2000GTのエンジンのモデルになったという話を聞いたことがありますが」


「さあ、それはわかりませんね。そもそもMGAは4気筒ですから」


どこかで聞いた噂話の真偽をさらりと確認してみたが、どうも眉唾だったよう。


「センターロックの形状はフィンタイプですが、これもオリジナルですか?」


「センターロックはこちらがオリジナルです」


と赤のMGAオーナー。

こちらの車両はセンターロックのヘッドがシンプルな八角形になっている。


「このほうが脱着しやすいんですよ」

「センターロックのヘッドに長いプラグを差し込むことができます。それをこのハンマーで叩いて回すんですね」


と年季の入った真鍮製のハンマーを取り出して見せてくれた。

製造メーカーのプレートが打刻されており、風格あるクラシックな工具だ。


「こちらのフィンタイプのロックもハンマーで叩いて回すのですが、ボディから突き出す長さが短いのでちょっと難しいです」


「なるほど」


自分の描いたイラストはフィンタイプのセンターロックで、web検索でもこのタイプが多い。

「ドアノブはどうなってるのでしょう。私が描いたイラストはクーペなのですが」


クーペはドアの隅にメッキされたオープナーのつまみがあるが、眼の前の二台はともにロードスター。

どちらもドアノブが見当たらない。


「どうやってドアを開けるかわかりますか?」

とオーナー氏。


「ちょっと検討がつきません」


「このように開けるんです」

と楽しそうに実演して見せる。


それは、外からドア内側に手を突っ込み、ドアオープナーのケーブルを引っ張るというもの。ちなみにドアウィンドウガラスははめ込みによる取り外し式だ。

常時オープン状態で乗り降りするというのが、この車のスタンダードなスタイルと言える。


「オープン状態で運転するのが基本で、幌は非常用という考え方なのでしょうか?」


「すこしくらいの雨ならオープンのまま走ります。そもそも欧米では雨が降っても傘をささない文化ですから」

「それに幌をセットするのが少々面倒で、時間がかかるのですよ」


「MGAは骨組を組み立ててから幌を張るので少し大変です。MGBとなると大分楽になるのですが」


「イギリス人は雨の日でも平気でオープンドライブを楽しむそうですね」


「そうなのです」

といいつつオーナーは車内のフロアマットをめくってみせる。


「実はご覧の通り、MGAのシャシーは木製なのです」

「まあ、走っていればほとんど雨は入ってこないので問題ありませんが」


「ちなみにMGAのシャシーはTDとほとんど同じで、サスペンションの構造などもほぼ同じなのです」


「架装してるボディをモデルチェンジしてるのですね。MGBも同じシャシーなのでしょうか?」


「いや、あちらはモノコック構造ですよ」


和やかに歓談しているうちに自然とMGBの話題となる。

会場には赤のMGBと緑のMGB GTが来ていた。

どちらも初期型でクロームのグリルとバンパーが美しい。

「こうして眺めるとMGBはAの正常進化のように感じますね。特に初期のクロームバンパーを見ると強くそう感じます」


「実は私、MGBも持っているのですよ」

と赤のMGAオーナー。


「私の持っているのは1979年式でウレタンバンパーのモデルです」


「5マイルバンパー規制の影響を受けた時代ですね」


「実はそのバンパーが気に入らなくて、初期型のバンパーに自分で交換したのですよ」


「改修なしでそのまま取り付けられるのですか?」


「ええ。取り外したバンパーは重くて15kgくらいあったんじゃないかな」


「前後で30kgとなると相当なものですね。。。」


話は尽きず、楽しい時間は瞬く間に過ぎていく。


そうこうしてるうちに日は傾き、時刻はいつの間にか午後3時。

そろそろお開きとなる時間だ。

最後に伺った話のなかで面白かったものを一つ。


「この燃料キャップですが、これは他の車のものを流用してます。何だかわかりますか?」

MGAのトランク部にある燃料キャップを指しながら、そうオーナーに問いかけられた。


鍵穴のついたごくありふれたクロームのキャップは、まるでオリジナルのように見える。


私は心当たりが全く浮かばず。


「ちょっとわかりません」

そう答えると


「これ、ベレットの燃料キャップなのですよ」

とオーナー氏。


「以前私はベレットに乗っていたのですが、MGAの燃料キャップと同径なのです」

「ちなみにオリジナルのMGAの燃料キャップには鍵穴がないのですが、ベレットにはあります。なので鍵穴が空いていたら、それとすぐにわかります」


見ると二台のMGAはいずれも鍵穴つきの燃料キャップを装備している。

どうやらMGAオーナーの間では定番のパーツ流用のようだ。


「どうしてベレットの物が流用できるのでしょう?」

「昔いすゞはヒルマンをノックダウン生産してましたが、その関係でしょうか?」


「そうかもしれませんが、よくわかりません」


「ただイギリスではメーターとかウインカーレンズとか、車の様々な汎用部品が流通していて、それらを流用して車の生産が行われてきました」

「例えば、このMGAのテールランプもそうした部品の一つです。おかげでパーツの供給で困ることはほとんどなく、意外に維持し易い車なのです」


旧車にとって部品の供給は最重要課題の一つで、その点MGAは恵まれた存在と言える。

バックヤードビルダーが多く存在した英国だからこその伝統で、それゆえこの国でも多くの愛好家に愛され続けるのだろう。

取材を終えた後、そんな事を考えながら家路につきました。


実りある話を多く頂き、有意義な時間を過ごす事ができた今回の取材。

オーナーの皆様、ここに感謝申し上げます。

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