水害に遭遇しました(2)

水害に見舞われたこの日の夕方、駐車場で見かけたのはいつもと違う異様な光景でした。

多くの車がドアを全開にし、オーナー氏がなにやら忙しく作業をしている。


「これは・・・」


事の重大さを理解するのにさほど時間はかからず。

自車にたどり着いてドアを開けると、嫌な予感は予想どおり的中する。

微高地にあるはずの駐車場は多くの車もろともあっけなく水没、被害にあったオーナーはその対処に奮闘しているという状況。

私自身もその当事者の一人となり、しばし途方にくれることとなりました。


まずはどこからどう手をつけるべきか。

そんなことを考え、ドアを開け車内の状況をひとまず確認してみる。

すると予想していた通りの展開が待っていた。


ドア開口部を上回った水位に達したと思われる汚水はどこかの隙間から室内に侵入し、水が引いた後もそのままとどまり続けている。

バスタブ状の形をしている車のフロアに、水がひたひた波打つ様子は少なからず衝撃的でした。


「・・・これは厳しいかも」

そう思いつつもキーを差し、エンジンをかけてみる。

すると幸いにもエンジンは問題なく息を吹き返す。

マフラーからの排気音はかなりノイジーだけど、とりあえず運転はできそうだ。

後にこうした行動は不用意であると気づくのだけれども、このときは少々気が動転していたのです。


まずは馴染みのガソリンスタンドに車を持ち込み、相談を試みることにした。

車内の水が暴れないよう慎重に運転しつつゆっくりと車を動かす。

家の被害対応に加え車のことも考えなければならないとなると、その足取りは気が重いものでありました。


スタンドに着くなり、いつもの給油位置ではなく整備リフトの前に車を止める。

その様子に気付いた馴染みのスタッフが声をかけてきたので、経緯を一通り説明。

すると


「よくエンジンかかりましたね」

「マフラーに水が入ってエンジンがかからないというお客さんから電話を、今多数もらっているんです」

との答えが返ってくる。


「マフラーの排気音がひどいのですが、これも水害の影響でしょうか?」

と質問すると


「マフラーに水がはいったせいですね。これは水が乾いてしまえば音はしなくなります」

「マフラーが完全に水没して排気を塞いでしまうとエンジンがかからなくなりますが、そこまでの冠水はなかったようですね」

その話を聞いてまずはほっと一息つく。


続いて最も懸念している件を質問する。


「実は車の中も水に浸かってしまいまして」

と説明しながら車内を見せる。

これでよくエンジンがかかったものだと我ながら思う。


「う~んこれは大変ですね。よくこれで運転してきましたね」

「ここまで水が入った車を運転しても大丈夫なのでしょうか」

と私

「電気の配線関係は少し高い位置を通ってるし、エンジンもかかったので大丈夫そうですね。

ただこの水をどうにかしないと」


「この車のフロアのドレーン位置わかりますか?そこから水を抜きたいのですが」

一般的に車は車体底部に何箇所か穴が空いており、そこをゴムの蓋でふさいであるという構造になっている。

そのことを思い出して尋ねてみる。


「なるほど、ちょっとやってみましょう」

そう言うなり馴染みのスタッフは運転席のフロアマットをはずし、スカッフプレートを手で引っ張って外していく。

「この車の内装部品はビスで止まっていないのですか」

「昔の車と違って今の内装はほとんどはめ込み式になってます」

そう言って彼はどんどん作業を進めていく。


スカッフプレートをはずすとフロア絨毯の端部分が車体の爪にひっかかるように固定してあり、それをはずしてフロアをめくり手を突っ込む。

「あった」

そう言って彼がゴム製パーツを取り外すと見る見る水が車外に流れていく。


排水の終わった運転席の床を見てみると500円サイズの穴が開いている。

「これがシート4脚分の位置にそれぞれあるので、そこから排水してください」

そう言ってドレーンキャップを見せながら説明する。

「内装はさっき説明した通り、はめ込みですから」


納得しながら私は、恐る恐る一応質問を試みる。

「この内装の清掃作業をお願いすることは・・・?」


「うちではやりません」


きっぱりと断られた私は、家の清掃作業と平行して車の清掃をするはめとなりました。


ここからは先は地味な作業の繰り返しなので、かいつまんで説明していきます。


ドレーンから汚水を排水したあとはタオルなどを使って汚水を吸い込んでは絞り、続いて新聞紙を設置して残った水の吸収を繰り返していきます。

これを仕事を終えたあと、夜8時すぎから深夜にかけて毎日実施しました。

水気はなかなか乾かず、根気が必要な面倒さでした。


ようやく車内が乾燥してくると、今度は汚水の匂いが鼻についてくる。

一晩おいてドアをあけると匂いがこもり、苦痛を感じるという状況。

真夏となって、室内循環でエアコンを使うようになると相当厄介な事になりそうだ。


この車は家人の通院や買い物、取材など文字通り生活の足として活躍している。

このままでは正直まずい。

そこで思い切って休日に公園駐車場でフロアカーペットを撤去。清掃後再取付を実施する事としました。

内装は前述の通りほとんどはめ込みなので、迷ったら取り敢えず引っ張って見る。

ボルト等で留まっているのはシート&シートベルトくらいだ。

あいにく整備書を持ち合わせていないので、とりあえずこの方針で作業を進めていく。


内装取り外し作業は思いのほか順調で、カーペットも取り外し終了。

自宅に持ち帰ってベランダで乾燥後、水洗いして清掃しました。

その後再度乾燥させたあと、次亜塩素酸を噴霧して消毒。


ここまでくればあとは取り付けるだけ。

難易度はそれほど高くないものの清掃や乾燥が大変で、とにかく時間がかかりました。


今回の水害は被害の深刻度はともかくかなりの規模で、これを機に車を乗り換えたというケースも数多くあったとか。

私の借りてる駐車場でも何台かはあたらしい車になりました。

懇意としている先程のガソリンスタンドでもお客さんの何人かは廃車、乗り換えとなり、その多くはSUVになったとか。

近年のSUVブームの理由もわかる気がします。


最後にスタンドのスタッフから聞いた話を水害時のアドバイスとして記します。


万が一駐車場で止めてる車が冠水被害にあった場合、間違っても(私のように)安易にエンジンをかけない事。

前述の通り、マフラーが冠水して排気が抜けない状態でセルを回したら、最悪エンジンが壊れてしまいます。

マフラーが完全に冠水していたなら、マフラーにたまった水を排水する事が重要。

例えば車体のフロント側をジャッキアップすれば、後ろ側のマフラーから自然に水が流れ出ていくそうです。

先のスタンドでは電話による問い合わせに、そのようにアドバイスしたとか。

当のスタンドでも給油スペースの敷地が冠水したようで、水が引いた後漂流してきたゴミが散乱していたそうです。


「まだ6月なのにこれでは、先が思いやられますね」


馴染みのスタッフとしばし談笑しながら面倒だった作業を今振り返ってみる。

地球温暖化が進んでいくという昨今、今後を考えると正直心穏やかならずという心持ちなのです。

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